論文タイトル : Conservation of migratory Magellanic penguins requires marine zoning
著者 : David L. Stokes, P. Dee    Boersma, Javier Lopez Casenave, Pablo Garcia-Borboroglu

“ペンギンの研究”ときいて、どういったものを思い浮かべますか? じつは世界にはペンギンの研究者がたくさんいます。その中で、今回は野生のマゼランペンギンの大移動についての研究を紹介します。

“鳥は飛ぶ”という常識を覆すペンギンは、海を自由自在に泳ぎ回ります。もちろん飛ぶことはできません。空を飛ぶ鳥の中で“渡り”をする種は多く知られていて、研究も多くなされています。しかし、ペンギンは繁殖期や換羽期 (1年に1度、羽が生え換わる時期) 以外の多くは、海で餌を追いかけながら暮らしているにも関わらず、海での生活に関する研究はあまりありません。その未知の生態を、地道な努力によって解明した、貴重な報告を紹介します。

マゼランペンギンはアルゼンチン、チリ、フォークランド/マルビナス諸島で繁殖し、繁殖期と換羽期が終わると大西洋を北へ向かうことが知られています。1年の多くを海で過ごすため、原油の流出、船の行き来、漁業、気候変動などの影響により、一部の繁殖地ではその数が減少しています。

マゼランペンギンの最大の繁殖地であるアルゼンチンのプンタ・トンボでは、本種の約20%が繁殖するといわれています。そのプンタ・トンボで58,232羽のフリッパー (翼) に目印を巻き、アルゼンチン南部の繁殖地でも約2,000羽に巻かれました。目印を巻くのと同時に、そのペンギンがいた場所、年齢 (幼鳥か成鳥か、成鳥になる前の亜成鳥か) も記録しました。この作業、なんと27年間も続けられたそうです。研究はたくさんの人の協力があってこそ、成果となって表れてくるという証です。

ここからは、この研究で明らかになったことを紹介しましょう。

● 回遊期間
下の図を見るとわかる通り、幼鳥の回遊期間が最も長いことがわかります。
具体的には、以下の通りです。
幼鳥   1月中旬から2月中旬に海へ出て、11月から2月に繁殖地へ戻る
亜成鳥 ペンギンによってバラバラ
成鳥   9月上旬から下旬に海へ出て、4月上旬から下旬に繁殖地へ戻る

● 回遊距離
繁殖地から最も離れた距離の平均をみてみると1,959km、幼鳥だけでみると平均2,041kmにもおよびました。なかには繁殖地から3,171kmもの場所で発見された幼鳥もいたほどです。須磨から北海道の最果て、宗谷岬まで行っても約1,300km… マゼランペンギンの計り知れない能力が垣間見えるデータですね。(右図)

 

 

 

 

幼鳥の回遊経路を詳しく調べてみると、繁殖地から海へ出て1ヶ月ほどはあまり遠くへは行かず、5月~6月頃に急に北上をはじめます。8月頃に北上のスピードがゆっくりとなり、12月あたりまで留まります。さらに左の図からもわかるように、1月頃からはかなりのスピードで繁殖地へ戻ります。

 

 

 

 

野生のマゼランペンギンたちは原油の流出や漁業の網に引っ掛かったりして命を落とすことが少なくありません。この研究でマゼランペンギンの回遊経路や期間が解明されることで、ペンギンが通る時期には人間の活動を制限したり、保護区域を設定するときに役だつかもしれません。動物の生態を知るということは、その動物をまもることにもつながるのです。
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