論文タイトル : Stomach contents of the Magellanic penguin from the northern distribution limit on the Atlantic coast of Brazil
著者 : Marina B.L.C. Pinto, Salvatore Siciliano, Ana Paula M. Di Beneditto

2000年9月、100羽以上のマゼランペンギンが打ち上げられたというニュースが (ペンギン関係者の?) 世界を驚かせました。場所はリオデジャネイロの海岸、夏のオリンピック・パラリンピックで盛り上がりをみせたブラジルの都市です。このペンギンたちの死を無駄しないためにいくつかの研究が行われ、そのひとつである“マゼランペンギンは何を食べているのか”の調査を紹介します


マゼランペンギンはふ化して1ヶ月半ほどでプールへ入り、親から吐き戻してもらっていたえさも自力で捕まえるようになります。ブラジルの海岸に打ち上げられたペンギンたちは、生まれて数ヶ月も経っていないペンギンだったと考えられます。


マゼランペンギンはアルゼンチン、チリ、フォークランド/マルビナス諸島で繁殖し、繁殖期と換羽期が終わると大西洋を北へ向かうことが知られています。若いペンギンほど遠くまで回遊し、また、より長い期間を海で過ごします。なんと3000km以上も北上するペンギンもいるようで、鳥類ではもっとも遠くまで泳いで移動するのが、マゼランペンギンなんです。

今回紹介する研究では、リオデジャネイロで打ち上げられた100羽を超える幼いマゼランペンギンたちの中から40羽をランダムに選択し、胃の内容物を分析しています。下表は、実際に胃から発見されたものです。これらはすなわち“ペンギンたちが食べたもの”なんです。

リオデジャネイロの海岸に打ち上げられたマゼランペンギンの胃内容物
確認された胃内容物 確認された割合 (%)
軟体動物 チリメンアオガイ 97.5
アメリカヤリイカ 75.0
ブラジルヤリイカ 65.0
頭足類 (イカ・タコ類) の水晶体 87.5
甲殻類 等脚類 (ダンゴムシ類) 5.0
フジツボ類 2.5
海草 32.5
7.5
プラスチック片 35.0
釣り糸 7.5
25.0

上の表からわかることは…
●イカやタコなどの軟体動物は、リオデジャネイロ沖のペンギンにとっては重要な食物
●プラスチック片や紙などのゴミを、多くのペンギンが食べてしまっている

海草も多く確認されていることから、マゼランペンギンは食物以外にも飲み込んでしまうことがあると考えられ、海洋のゴミは大きな脅威になる可能性があることが示されています。また、他の水鳥に対しても深刻な影響を与えかねない問題となっています。

ここで紹介したマゼランペンギンたちは、空腹のために体力を落としたともいわれています。その背景のひとつに、漁業との軋轢があります。マゼランペンギンが回遊するルートで漁業をすることで、ペンギンが漁網に引っかかって溺れたり、えさとなる魚が少なくなってしまうことも考えられます。また、ゴミの問題も深刻です。海洋のゴミが、どれほどの動物の命を危険にさらしているかはわかりません。  遠い国の問題のように感じますが、漁業が主要な産業である日本も無視できない問題です。どのように魚が獲られ、どれだけのゴミが海に捨てられているのかに関心を持つことが、ペンギンをはじめとした海の生物を救う一歩になるんです。
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