私たち人間は、なぜペンギンを飼育するのだろうか?生きものを飼育する場合、誰もが自問自答すべきだ。飼育の目的はなにか?しっかり説明できないのならば、自分以外の生命を軽々しく扱うべきではない。野生動物であるペンギンは、ほとんどの現代人にとって、もはや「食料」でもなければ「原料」でもない。緊急事態以外、この海鳥やそのヒナや卵を勝手に捕獲し利用することは、複数の国際法や国内法で幾重にも禁止され規制されているからだ。では改めて問い直そう。

なぜペンギンを飼い続けるのか

21世紀も18年目を迎えた今、なぜ人間は野生動物であるペンギンを飼い続けるのか?少数の例外はあるが、現在、飼育下にあるペンギンのほとんどは「個人的嗜好」を満たすために飼われているわけではない。大多数は、動物園や水族館など、各種の比較的大規模な専門的飼育施設で公開展示されている。これらの施設は、1、教育・研究、2、保全活動推進、3、レクリエーションをその主な活動目的としている、「博物館相当施設」あるいは「博物館」と名乗っている施設もある。上述の「動物園・水族館の三大設立趣旨」は、国際的な共通認識となって久しい。また、上記の趣旨を実践し実効あるものとするため、欧米の先進的施設の多くは、研究者や保全団体を支援し共同研究や共同活動を推進することを目的とした、各種の国際協定や協力契約を締結してきた。さらに、野生個体の導入を最小限にとどめ、同時に「飼育下個体群の遺伝的多様性」を保つため、施設間、施設と野生地の保護団体・当該政府や自治体間で、様々な技術的研究、人材の交流などか積極的に試みられている。野生動物を、その本来の生息地で直接つぶさに観察することは、現在の豊かさのレベルでは、たとえ先進国の市民といえども、容易なことではない。映像や各種媒体による情報提供にも、各々の機能的限界がある。

ペンギン飼育マニュアル研究に課せられた責務

では、どうすれば、野生個体群に負担をかけることなく、野生動物を日常的かつ間近に観察できるのか?今のところ、そしておそらく当分の間は、飼育下個体群を保持し、動物園や水族館などの飼育施設で公開する以上に効果的な方法はないだろう。しかし、現在の飼育施設や飼育技術の水準は、残念ながら決して完成された高度なものではないし、世界的・国内的な水準のばらつきも大きい。ここにこそ、「ペンギン飼育マニュアル研究」に課せられた重大な責務がある。

ここでは、現在公開されているいくつかの「ペンギン飼育マニュアル」を対象に、その内容を紹介し、これに専門的解説と分析とを加えていきたい。繰り返すが、この研究の趣旨は、「ペンギンの個人飼育」を支援したり助長したりということとは無縁である。むしろ、「ペンギンの個人飼育」は厳に慎んでいただきたい。象牙やサイの悲惨で野蛮な例を挙げるまでもなく、野生動物の嗜好的飼育の拡大は、ペンギンの密猟を助長し、野生個体群の絶滅の直接的引き金となることは明白だからだ。以上のことを十分ご理解いただいた上で、この「ペンギン飼育マニュアル研究」を繙いていただければと切に願っている。

おすすめの記事